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第4節 次の100年に向けて
生産管理システム「業務システム」の構築
2002年(平成14)夏、この時点で当社の設計、製造ラインのデジタル化、コンピュータ化は進んだが、生産管理はまだ人手による手書きの工程表で管理していた。一つひとつ異なる製品を造る個別受注生産型という金型製造の業態に、生産管理のコンピュータ化は至難だった。しかし、受注が拡大すると、どの製品が今どのような状態にあるのかが把握できないと現場に混乱が生じる。順調に拡大する受注に生産管理の高度化の必要性を感じていた浩史社長を、高校の同級生大濱康夫が訪ねてきた。大濱は、独立してシステム会社「有限会社システム・ソリューション・ラボ(SSL)」を立ち上げたばかりで、顧客開拓のため高校時代の同級生たちを訪問していたのである。
浩史社長は、大濱にシステムの開発、サポートを依頼。当社の生産管理システムの構築が始まった。開発の経緯を現在当社管理部次長の大濱は次のように語る。
システム構築にあたって、既存のパッケージを使うのか、オリジナルシステムを構築するのかを検討するため、社長と、大嶋さんといっしょに当時出ていた金型製造向けのシステムを見学に横浜まで行きました。大手のシステムでしたが、個別受注生産型という業態ゆえ、ピッタリとあうものはなかった。しかも、パッケージの場合は、業務の流れをパッケージにあわせなければなりません。また、マスターという標準になるデータを登録する必要がありますが、その入力には多大の時間がかかります。システム導入に苦労はつきものです。どうせ苦労するなら、オリジナルでやってみようと。そのほうが会社に即したものになると、社長に話しました。
ただ、オリジナルの場合は、各課の課長クラスと最低限の打ち合わせをしなければなりません。製造業の場合、昼間に打ち合わせの時間はなかなか取れないのでうまくいかないことが多いのですが、当時の課長、現在は次長クラスですが、皆さん夜遅くの打ち合わせにもかかわらず、積極的に時間を割いてくれました。
これによって、生産管理システムは03年1月に稼働した。「業務システム」と呼んでいるこの生産管理システムは、既存のパッケージではなくて、オリジナルシステムを構築したことにより、現状に即したシステムが構築できたとともに、機能の追加を簡単に行うことができる点も既存のパッケージにはない強みだった。このため、03年までに段階的に精度を高め、発展させることができた。
20年以上コンピュータシステムの開発に携わってきた大濱からみても、「松村精型には、スムーズに、素直にシステム化できる土壌があった」と言う。大濱はそれを「人手ではあるけれども業務の流れが確立されていたこと」だと言う。システムについては大濱自身も自負する一方、「金型も初めて、会社の仕事の流れも知らない私たちに、これだけのシステムがわずか半年で構築できたのは驚異的だと言っても過言ではありません。導入に関しては、当時の課長さんたちがその必要性について十分に理解して認識していたからでしょう。皆さん非常に前向きに取り組んでもらいました。開発もソフトウエア会社である私たちが考え抜いて提案したわけではなく、業務の流れをそのまま置き換えていったというほうが当たっている」と、分析する。「業務の流れが確立されているところにシステムを導入したので、その効果がストレートに発揮できたのではないか」と。
以前にもほかの金型会社で生産管理システム構築を担当したことがありますが、失敗した会社もあります。その会社も松村精型に劣らずCAD/CAMの導入に熱心で、生産管理システムの導入も早かったのですが、駄目でした。うまく使いこなせないのです。一般的に、生産性が低かったり、しなければならないことがなされていなかったりと、業務の流れが確立されていない企業にコンピュータシステムを導入すると、あってもうまく使いこなせないということが多いのです。
同システムは、最低限の情報を入力するだけで、計画、手配、進捗の確認、再手配などの流れをつくることができた。これにより業容の拡大に対応できる経営環境ができた。たとえ、受注売上が倍増したとしても、生産管理システムによって標準化されているので、どのような手を打てばいいかがわかる。大濱は、「その意味ではインパクトのある年だったのではないかと思う。私は提供する側だったから客観的に評価はできていなかったが、後で入社し、皆さんに聞くと、『業務システムの導入は画期的だった』と、言ってくれます。これで、本社の基幹業務の生産管理、財務会計面に関しては、基盤はできました」。
製造第二課長の土田浩二も「業務システムを導入してから仕事の流れが変わった」と言う。「システム導入前は、目で見える範囲しか見えなかったが、どれだけさばけるかの計画まですべてがデータ化されたことによって、漏れが少なくなっただけでなく、先が見えるため事前に行動することができる。技能もそれに伴って上がってきている」と、評価している。