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60年の歴史 第4章

第2節 社長交代と新たな分野の開発

解析から試作までのエンジニアリング企業に〜三菱自動車GDI傾斜鋳造プロジェクト〜

1997年(平成9)、三菱自動車は世界に先駆けて燃費35%向上を実現した筒内直噴エンジン「GDIエンジン」の量産開発に成功した。当社は、このGDI(Gasoline Direct Injection)エンジン傾斜鋳造プロジェクトにおいて、この高性能エンジンの命とも言えるシリンダーヘッドの鋳造設計から量産試作までを担った。

三菱自動車から開発を依頼された大阪技研が開発用金型の製作を当社に打診してきた96年8月は、バブル崩壊のあおりで自動車業界のモデルチェンジは滞り、新しい自動車部品のための金型注文も大幅に減少しているときで、当社は大阪技研経由で韓国のホイールメーカーのアルミホイールの金型製作と試作を行っていた。三菱自動車のGDIエンジン開発プロジェクトに携わることは、数年前から鋳造解析の重要性に着目し、解析装置や試作設備の導入と実用化を進めてきた当社としては、“鋳造設計から解析、型設計、型製作、試作までを一貫して行える鋳造型メーカー”として認識される絶好のチャンスだった。

GDIエンジンは、あらかじめ空気を充填したシリンダー内に直接ガソリンを噴射することによって超希薄な完全燃焼を可能としたエンジンである。そのため従来の理論空燃比14.7から25〜40というきわめて希薄な燃焼を達成し、35%の燃費向上を実現した。したがって、燃焼室には高い強度が必要となる。そこで、急冷すると強度が高まる金属の特性を利用し、燃焼室付近を急冷するのだが、ここに従来の方法の問題点があった。急冷が必要な燃焼室と高温の持続が求められる湯口との距離が、これまでの方案設計では非常に近かった。これでは湯流れも燃焼室の急冷もうまくいかない。鋳造方法を変更する大きな目的の一つが、この燃焼室と湯口との距離を離し、燃焼室から湯口への指向性凝固を図り、燃焼室付近の材料強度をアップすることであった。

圧鋳造試作機

低圧鋳造試作機

当社では、鋳造方法の変更によって、新たに起こりうる問題点があらかじめ予測され、それらの解決に必要なデータを取る目的で、透明化モデルを用いた湯流れシミュレーションの実験を行った。また、GDIエンジンは燃焼室や燃焼面側の冷却回路が多く、複雑で、そのうえシリンダー作動空圧回路も多い。型内の限られた空間に、いかにして露出させずに埋め込むかが課題だった。しかも納期まではわずか1カ月。年内には試作品を提出しなければならない。夜間は、無人加工で型製作を進める10台のNC工作機械がフル稼働。三菱自動車からは、同社創立以来初めてという多くの担当者が、入れ替わり立ち替わり、試作の立会に訪れた。自動車産業各社は環境への新しい性能競争にシフトしている。GDIエンジンに賭ける三菱自動車の意気込みも並大抵ではなかった。当社では、試作品の出来具合に応じ、担当者たちが土日返上で型修正をして間に合わせるなど、一貫生産の大切さと醍醐味を味わったことも大きな収穫だった。また、三菱自動車の要請で、当初20個のサンプル出しのみの試作予定が、急遽120個余りの初めての量産を前提とした本格鋳造となった。しかも期間は2週間。特別編成の鋳造スタッフを組み、早朝から夜遅くまで慣れない作業に従事した。三菱自動車に無事納品を完了したのは、97年3月だった。

大きな達成感とともに、この経験は、当社の従業員の自信となった。唯一、熱処理や仕上げなどの設備が社内にもアルミ産業が盛んな地場にもなかったため、三菱自動車で行わざるを得なかった点が悔やまれたが、これについては、その後鋳造試作工場を建設し、熱処理・仕上げ設備を整えることとなる。

これを契機に当社は、砂型鋳造から低圧鋳造に、アルミ製自動車部品のなかでもシリンダーヘッドに絞って鋳造設計から解析、型設計、型製作、試作までの一貫した鋳造エンジニアリングと型製作エンジニアリングを一体化させたわが国唯一の鋳造エンジニアリング会社として認知されるようになった。無駄のない製品開発をサポートする金型企業として、自動車メーカーに対する認知度も高まった。加えて、GDIエンジン開発をとおして、浩史社長への求心力が強まり、社内の結束力が強くなったことも大きな収穫だった。

GDIエンジン

 

GDIエンジンは、インテークポートを直上から回してシリンダー内に強い縦方向のスワールを発生させることが特徴。このスワールによってインジェクタから噴射されたガソリンを効率良く点火プラグ周辺に集めることが可能となった。従来型のエンジンとは異なる直立吸気ポートとわん曲ピストンが特徴。また、ノッキングを起こしやすいプラグ周辺に燃料を直接噴射することにより、吸気温度が気化熱によって下がるので、混合気の充填効率が向上し圧縮比を12と高く設定している。

こうしたことによりGDIエンジンは、理論的にガソリン噴射量やタイミング、空燃比のコントロールがしやすくなり、安定走行時の超希薄燃焼からパワーアップ、CO2排出量の削減という相反する要素を高次元で実現した。

直噴エンジンは内側からものすごい力がかかるので、力のかかる部分の組織が細かくなくてはならないため、普通の低圧鋳造では造れなかった。

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