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60年の歴史 第2章

第2節 木型から金型への転換

オイルショックと鈍化する建設機械の伸び

金型の受注拡大に伴って作業場は工場になり、人員も増加、積極的な設備投資も相まって工場の狭隘は誰の目にも明らかになった。加えて、急激な近代化と高度経済成長は、人口の都市部への集中をもたらし、数年前は田圃だった場所にも家が立ち並ぶようになった。中心市街地に近い当社の周辺には、住宅や商店が密集するようになり、工場敷地の拡張は見込めなくなっていた。

オイルショックを報じる新聞見出し

行政指導で日曜日休業のガソリンスタンド(『北陸地方電気事業百年史』)

拡大する一方の金型製造に、敷地拡大が見込めなくなった当社は、小松製作所氷見第二工場の建設をにらんで1972年(昭和47)12月に高岡市長慶寺925番に土地1305m2を、73年3月には同924番に651m2を購入して新工場建設の準備に入った。

生産技術の革新に伴って、大企業ではそれに見合った経営組織、事務の機械化など経営全般の近代化が進んだが、中小企業でも1963年に中小企業基本法、67年に「中小企業振興事業団法」などが制定され、中小企業の設備の近代化や協業化が図られた。各地で国の高度化資金助成金を受けた高度化団地が郊外に設置され、高岡市でも67年、協同組合高岡銅器アルミ鋳物共同工場団地が高岡市長慶寺に、高岡機械工業センター協同組合団地が戸出に設立されるなどして旧市街地の中小企業が相次いで移転していた。工場団地への移転は、単に工場の移転だけでなく、中小企業の経営者、労働者にとって、近代的な新しい体質への転換をも意味していた。

しかし73年10月、第4次中東戦争の勃発を受けたアラブ石油輸出国機構(OAPEC)10カ国が原油生産削減を決定して第一次オイルショックが発生。日本では石油製品を中心に物価が高騰した。「狂乱物価」は食料品や日用雑貨にまで及び、74年1月の卸売物価は前年比135%と、終戦直後並みに跳ね上がった。「省エネ」が叫ばれ、政府は大企業などの大口需要家に石油・電力10%使用削減の行政指導をする一方、暖房温度の引き下げ、マイカーの自粛、商店の営業時間短縮を呼びかけた。

オイルショックによる当社の売上状況       (単位:千円)

11月 12月 1月 月平均
1973年度 7,954 9,749 1,248 6,317
1974年度 3,629 6,213 4,845 4,896
差 額 1,421

原料不足を心配する仮需要でメーカーは増産体制を敷いたが、74年に入ると需要の減退で一気に過剰在庫を抱え、大幅な操業短縮に追い込まれた。繊維、電機など需要の落ち込みが大きかった業種を中心に一時帰休や人員整理などが行われた。74年の日本経済は戦後初のマイナス成長に陥り、74・75年の県内における負債総額1000万円以上の倒産件数は2年間で239件に及んだ。75年3月期の企業業績はほぼ全業種で減益となり、8月には東京証券取引所一部上場の株式会社興人が負債2000億円(当時戦後最大)で事実上破綻。設備投資の動向に依存する産業用機械の落ち込みも大きく、小松製作所が市場とする建設市場では76年度に5000件、77年度にも5700件が人件費や資材の高騰を吸収できずに倒産、氷見工場にも在庫が並んだ。

当時当社は、小松製作所の要請もあって金型生産を始めたばかりの時期だった。74年時の当社の概要をみると、従業員は15人、鋳造用の金型・木型だけでなく、プラスチック金型やダイカスト金型を製造していたが、月商をみれば小松製作所の比重の大きさがわかる。

長慶寺団地における新築・移転計画も販売不振による小松製作所の受注減で大きく狂った。74年1〜12月の総売上は約6027万円で、対前年比81.4%。74年11月から翌75年1月の3カ月間の売り上げは対前年比77%と予想を大きく下回り、高岡市の中小企業緊急特別融資を申請するまでに追い込まれた。当時を寺島吉郎は、「当時は松下電器でも仕事をしても在庫が増えるだけなので、従業員は駅の掃除や草むしりをしていました。富山でも紡績工場やアルミ工場などで一時帰休や操業停止が相次ぎました。当社も仕事がまったくなかったというわけではないのですが、オイルショック前までは8時、9時まで残業していたのが、終業時間までの仕事がない状態でした」と、語っている。

建設資材の高騰と相まって、先行きの不透明感から、当社の工場建設は時期を見極めざるを得なかった。

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