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60年の歴史 第1章

第2節 松村木型製作所の創業

試練を超えて〜変わる産業構造〜

しかしブームは長くは続かなかった。1952年(昭和27)に朝鮮動乱は休戦して特需は終焉。旺盛だった繊維消費量も52年に戦前の水準に達すると業界では過剰設備が表面化した。機屋の休機や商社の倒産が相次いで機械工業も低迷した。

朝鮮動乱の特需は一時的なものにすぎず、貿易を含めた経常取引で約5億ドルの支払い超過になった。53年9月には入超による外貨危機に対処するために金融引き締め政策がとられ、54年には物価の値下がりを伴うデフレ不況となった。不況は繊維機械にとどまらず、その影響は松村木型にも及んだ。

中小企業だけでなく有名企業までが破綻する状況に、幸作は人から勧められて麻雀荘経営にも乗り出したが思ったほどの利益は出なかった。当社のような機械の型製造に比べて一般家庭が対象の銅器の型製造には不況の影響はあまりなかったが、幸作は「銅器はやっても駄目だ」と、どうしても銅器には手を出そうとはしなかった。こうした会社の状況に、当時5人いた従業員は、2人が独立、なかには辞めて銅器や木工所に移った者もいて、遂には幸作と冨田弘だけになった。

高岡駅前の第13回国民体育大会富山県大会の案内板

しかしこの不況は55年になると一変した。56年度の『経済白書』は、「もはや戦後ではない。回復を通じての成長は終わった。今後の成長は近代化によって支えられる」と宣言し、「戦後復興を完了したこれからのわが国も設備の近代化と技術開発のための投資をさかんにすることによって、はじめて経済成長が支えられるだろう」「そうしてこのような投資活動の原動力となるのは技術革新である。技術革新は広い経済的影響を持ち、経済の近代化を促進するだろう」と指摘した。事実、日本経済は成長期に入り、技術革新によってめざましい拡大路線を歩んだ。外国から先進的な技術が導入され、あらゆる産業で近代化投資が盛んになり、国民生活も近代化、大量消費の時代を迎えた。

富山県の工業出荷額の推移(単位:百万円)

産       業       別 1955年 1960年 出荷額の伸び(B/A)(%)
出荷額(A) 構成比(%) 出荷額(B) 構成比(%)
繊                 維 20,603 24.6 32,136 18.1 156
紙パルプ・紙製品 11,879 14.2 16,431 9.3 138
化    学    工    業 18,945 22.6 40,645 22.9 215
鉄        鋼       業 8,643 10.3 21,192 11.9 245
非    鉄    金    属 3,697 4.4 9,269 5.2 251
機      械 5,105 6.1 20,688 11.7 405
そ        の       他 14,974 17.9 37,103 20.9 248
総      額 83,846 100.0 177,464 100.0 212

出典:『富山県史 現代』

富山県の工業構造も大きく変貌した。戦後の経済復興期に工業出荷額の1位を占めてきた繊維工業は、55年の約206億円が60年には約321億円と1.6倍になった。60年になると伸び悩む紡績に代わって化学工業が1位になり、55年からの5年間に約189億から約406億円と2倍を超えて県工業出荷額の4分の1を占めるようになった。また、鉄鋼、機械も大きく伸び、なかでも機械は4倍にも伸びた。

松村木型も機械産業の伸びに歩調を合わせるように仕事量が増え、58年には寺島吉郎ら2人が入社した。当時を寺島は、次のように語る。

私が入社したのは平米町の工場で、道路に面して前に住宅があり、後ろに20〜25坪の工場がありました。社長(幸作)と富田さんの2人が、手押しカンナ機、丸鋸昇降盤、自動カンナ機、木工旋盤機、万能木工機(カンナ機・丸鋸昇降盤の複合機)などの木工機械と、あとはノミ、カンナを使って仕事をしていました。設計図は、社長が担当。取引先のメーンは、繊維機械の石動製作所、鈴木鋳造所でしたが、仕事は忙しく、入社3年後には従業員も7、8人になっていました。

入ったときは毎月1日と15日が休みでしたが、社長に「休日を第1、第3日曜日に変更してほしい」と要望してかなえてもらったことを覚えています。当時町工場の休日は月に2回くらいだったのです。

57年6月、高岡市では北陸3県合同原子力平和利用大博覧会が高岡古城公園を会場に開催され、65日間の会期中、約26万人の入場者を数えた。58年には第13回国民体育大会富山県大会が開催され、7種目が高岡市で行われた。相次ぐ大型イベントの開催は、市民にも戦後復興の終わりと新しい時代の幕開けを実感させた。

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